車の盗難被害は、最も多かった平成15年の年間6万件超と比べると、令和4年の認知件数は約5,800件とピーク時の一割以下まで減少しています。しかし、高級車や希少車種の盗難被害はまだ多数発生しており、できる限りの盗難対策が必要です。こちらでは、所有者ができる車の盗難対策と、車がもし盗難にあってしまったらどう対応するか、について詳しく解説します。
ドライバーができる車の盗難対策
愛車を盗難被害から守るために、車の所有者ができる5つの盗難対策をご紹介します。
ほんの少しの降車でも絶対に施錠する
コンビニや自販機などの短時間の買い物の時、降車時に施錠をせず、エンジンをかけたままという人がいるようです。このように無施錠の状態で盗難された車の件数は、施錠済みの場合の2~3倍程度となっており、施錠するだけで盗難被害に遭う確率が大幅に減少することがわかっています。
また、エンジンがかかったままの車は、ものの数秒で盗難被害に遭ってしまいます。短時間の用事であっても、車を降りる時には必ずエンジンをストップし、施錠してから車を離れることを心がけましょう。これは、車の盗難被害だけでなく、車上ねらいなどの被害に遭わないためにも必要な対策となっています。
スペアキーを車内に保管しない
仮に施錠していたとしてもスペアキーを車内に置いたままの場合は、キーシリンダーや三角窓を破壊してドアを開け、車内のスペアキーを奪って普通に運転して盗まれてしまう可能性があります。車のスペアキーは必ず、自宅など車外で保管し、車内に残さないようにしましょう。
盗難に遭いにくい場所を選んで駐車する
マスターキーやスペアキーがなくとも、車を動かす(盗む)方法はあります。そのため、車の施錠を徹底していても盗まれる可能性はあります。
そこで、駐車する場所を工夫することで、盗難され難くすることができます。例えば監視カメラなどの防犯装置がある駐車場で、防犯装置に映る位置に駐車している車を選ぶ可能性は低くなっています。特に屋外駐車場は車盗難被害のうち7割を占めており、屋内に比べてかなり差があります。外出時に大型の駐車場がある施設で駐車する場合は、できるだけ屋内駐車場で駐車し、監視カメラがある位置を選ぶと良いでしょう。自宅駐車場の場合も、カーゲートがあれば侵入し辛くなるうえに、車を出すのも難しくなりますし、監視カメラやセンサーライトを設置しておけば車の盗難・車上ねらいに対してだけでなく、空き巣に対しての威嚇にもなります。
イモビライザー付きの車を選択する
イモビライザーは、鍵が発信する電子キーのIDと車両本体との認証ができなければ、エンジンが始動できないようになっている盗難防止システムのことです。力づくでドアのキーシリンダーを破壊し、こじ開けることができても、イモビライザーによってエンジンの始動ができなければ、車を移動するのに時間がかかるため自動車盗難に対して大きな効果があります。イモビライザーは車上ねらいに対してはあまり意味はないものの、イモビライザーを装着した車が増えた影響で、自動車自体の盗難件数は大幅に減少したと言われています。
最近の車にはイモビライザー(スマートキー)がついていることが多くなりましたが、古い車種にはついていない事が多く、イモビライザーのためだけに車を買い換えるのは経済的な負担も大きいと思われますので、ちょうど車を買いたい・買い換えたいと予定されているのであれば、車両を検討する材料の一つとしてイモビライザーの有無を確認して車を選ぶと良いでしょう。
ただし「イモビカッター」と呼ばれる機器を車の内部に装着することでIDを上書きし、イモビライザーを無効化して窃盗犯が持つキーのIDに書き換えてしまう手法や、イモビライザーキーの発信する微弱な電波をリレー形式で飛ばし、車の解錠をする「リレーアタック」といわれる手法もあるため、イモビライザーは絶対的なセキュリティではないということにご注意ください。イモビカッターを無効化するための「イモビカッターガード」という商品や、リレーアタックを避けるスマートキーの電波遮断保管ケースも市販されていますので、より安心を求めるのであればセットでそろえておくことをおすすめします。
ガラスに車台番号をエッチングする
車の窓ガラス全てに車台番号をエッチングすれば、いざ盗難が成功しても、ガラスにエッチング加工された車台番号のおかげで盗難車だということが簡単にバレてしまいます。
エッチングとは、ガラスの表面に塩酸などの化学薬品を使用し腐食させることで文字や模様を描くガラス加工技術のことです。盗難車両の車両番号や車台番号を偽造して輸出しようとする業者がいますが、エッチング加工により車台番号がガラス表面に書かれていると、偽造するには窓ガラスを全て交換しなくてはいけません。車の窓ガラスを全て取り替えるとなると数十万円以上必要になります。そのため、窃盗犯のターゲットに選ばれ難くなる効果が期待できますし、盗難車両をすぐ持ち出されないように抑制することもできます。
セキュリティ製品を利用して盗難対策をするには
車両盗難や車上ねらいが車に侵入する手口として、無施錠の場合を除くと、三角窓のガラスやドアの窓ガラスを破壊するものが多くなっています。
つまりセキュリティ製品を利用して窓ガラスを破られ難くするか、衝撃を与えられた際にアラームが鳴れば、盗難犯への抑制効果が期待できます。そこで有効な商品として、窓ガラスフィルムやカーセキュリティシステムなどがあります。こちらでは、市販されているセキュリティシステムやグッズをご紹介します。
窓ガラスフィルム
窓ガラスを割られ難くするためのガラス用セキュリティフィルムが市販されています。対貫通性能のあるガラスフィルムを貼ると、ガラスの厚みが増すことで容易には割れづらくなり防犯対策に役立ちます。ただし窓ガラスフィルムを貼った場合の弊害として、冠水などの被害で車が水没した際に窓ガラスが容易に破壊できなくなることや、可視光線透過率70%未満のフィルムを貼ってしまうと、道路運送車両法の保安基準以下となって車検に通らなくなることがあります。
カーセキュリティシステム
ポピュラーな車両盗難・車上ねらいの対策として、アラーム音などのカーセキュリティシステムを導入する方法があります。セキュリティシステムはセンサーを取付て、振動や傾きなどが検知されると大きな警告を鳴らし、付属するリモコンに通知して車の持ち主にも車両の異常を知らせます。盗難被害に遭いそうになった際に防ぐためにも役立ちますし、システムを導入していることをステッカーなどで車外へ知らせることで威嚇効果もあります。
ダミー製品
カーセキュリティシステムのダミー製品を利用する手もありますが、安いかわりに当然ダミーのため音がならないので威嚇効果しかありません。経験豊富な窃盗犯はダミー製品と、本物のセキュリティ製品を見分けられる可能性が高いので、思ったほど効果が得られないかと思います。出来るだけ本物のセキュリティシステムを導入するべきでしょう。
タイヤロック(ホイールロック)
タイヤ(ホイール)に取り付け、タイヤを回転できないようする製品です。車上ねらいに対しては無意味ですが、自走だけでなく牽引もし難くなるので、自動車本体の盗難対策としては効果を得られるでしょう。車の外から目立つので威嚇効果も期待できます。ただし、安価な商品では簡単に破壊できてしまったり、タイヤロックの鍵が解錠されてしまう場合がありますのでご注意ください。
ステアリングロック(ハンドルロック)
ハンドルを固定し、ステアリング操作をできなくしてしまう製品です。タイヤロック同様に、自動車盗難対策になりますが、ステアリングロック自体は丈夫でもハンドルは柔らかい素材でできているため、ハンドルをノコギリなどで切断した後、ステアリングロックを容易に外すことができてしまいます。絶対的な効果は期待できないため、他の製品と合わせ、威嚇や時間稼ぎの一種として認識しておくと良いでしょう。
ペダルロック
ブレーキペダルを固定し車を走行できなくする製品で、ブレーキペダルロックともいわれています。ブレーキペダルを固定すると、ブレーキを踏み込んでエンジンをかける車体のエンジンをかけることができなくなりますし、もしもエンジンがかかったとしても、ブレーキが踏み込めない車で自走して運ぼうとする人は少ないでしょう。タイヤロックと違って簡単に切断もできません。しかし、車外から目立つセキュリティではありませんので威嚇効果は薄くなります。これも他製品との組み合わせ前提で考えておきましょう。
シフトゲートロック
シフトレバーの位置をP(パーキング)で固定し、動かなくする製品です。シフトゲート式を採用している車種用に市販されているものがあります。特に高級スポーツカーなどの保管時に使用している人が多いようです。ペダルロックと同様に、簡単に切断はできないでしょうが、これも他製品との組み合わせ前提で考えることをおすすめします。
車が盗難されてしまった時の対応方法は
上記のような車の盗難対策を行っていても、盗難にあってしまう可能性はゼロではありません。もしも、車が盗難されてしまった時はどのような対応をすればよいのでしょうか。
警察に通報し、盗難届を提出する
まずは警察に通報しましょう。捜査によって盗難された車が見つかる可能性は非常に低いものの、第一に連絡しなくてはいけません。警察への通報は、後の保険金の受け取りや廃車のためにも必要です。警察に通報すると、盗難届を提出します。盗難届は受理後に受理番号が交付されます。受理番号は廃車などでも必要になる番号です、申請後控えておくようにしましょう。
保険会社に連絡する
車両保険で盗難補償が入っているプランに加入している場合、保険金を受け取ることができます。ただし盗難の場合は調査のためとして(盗難車が見つかる可能性を考慮して)1ヶ月ほど保険金の支払いまで時間がかかることが多いです。「車両身の回り品補償」といった補償を契約している場合、車両と同時に盗難にあったものについても補償を受けることができます。
※ただし車上ねらいなどのように、車そのものが盗難にあっておらず、身の回り品のみ盗難にあった場合は補償対象外になる場合があります。なお、盗難補償で保険金を受け取った後に盗難車が見つかった場合は、その車両は保険会社のものとなります。
廃車の手続きをする
車が盗難にあって手元になくて使用できないとしても、書類上では使用中という扱いになるため、自動車税などがかかってしまいます。盗難された車はパーツ単位までバラバラにされている可能性が高く、もしも見つかったとしても、再びその車(部品が剥ぎ取られた後の残骸)を使うことは難しいようです。見つかるかどうかもわからない、見つかっても無事ではない可能性がある車に税金を支払い続けるのは非常にもったいないので、廃車手続きをしておくことをおすすめします。通常の廃車は、車検証とナンバープレートの提出が必要になりますが、理由書(普通自動車の場合)または車両番号標未処分理由書(軽自動車の場合)に盗難届の受理票を添えて提出することで盗難された車を廃車することができます。
一時抹消登録(普通自動車)と自動車検査証返納(軽自動車)について
一時的に利用しない車は一時抹消登録(普通自動車の場合)または自動車検査証返納(軽自動車の場合)することで、自動車税の請求が止まります。
好きなタイミングで使用を再開することができるので、「もしかしたら盗難車が見つかるかもしれない」と考えるときは一時抹消登録(普通自動車)または自動車検査証返納(軽自動車)をしましょう。
永久抹消登録(普通自動車)と解体返納届(軽自動車)について
永久抹消登録(普通自動車の場合)と解体返納届(軽自動車の場合)は一般的にイメージされる廃車で、その車を二度と使えなくなります。
一時抹消登録(普通自動車)や自動車検査証返納(軽自動車)と違って使用再開することはできませんが、登録を抹消した時点で残っていた期間の自動車重量税などの還付をうけることができます。
まとめ
今回は、車両の盗難対策としてできることをいくつかご紹介しました。車両盗難の究極の対策として、自動車保険があります。もちろん盗まれないことに越したことはないですが、ご自身の車が絶対に盗難にあわないとは言い切れませんので、任意保険で盗難補償をかけておくのもひとつの手です。いくつかの盗難対策と合わせて、盗難保証があれば安心できます。車を盗難されないようにできる基本的なポイントは、施錠をしっかりすることと、カーセキュリティなどを導入して威嚇効果をつけることです。これらの盗難対策は、同時に車上ねらいへの対策にもなります。何かあってからでは遅いので、まだ対策をしていない人はすぐにでも対策を行いましょう。
また、盗難車で国内を走ると警察に見つかる可能性があるので、盗難された車はパーツ単位でバラバラにされて海外に売られるケースが多いそうです。もし車が後日発見されても、車体は無事ではない可能性が高いため、発見を待っている間の自動車税のことを考えると早々に廃車を検討した方が良いかもしれません。ただし、軽自動車や、市場価値の低い自動車の場合は一時的な足として使われ、どこかに乗り捨てられている可能性もあります。不審な車が置きっぱなしになっているなどで通報され、1~2週間程度で見つかるケースもあるのです。もしも車両盗難被害に遭ってしまった時は、早急に警察と保険会社へ連絡するようにしましょう。