カーボンニュートラルなモビリティ社会への取り組みとして、水素自動車の研究開発が世界各国の自動車メーカーですすめられています。2022年12月現在、水素を直接燃焼する内燃機関(エンジン)をもつ水素自動車は市販されていませんが、水素を燃料として発電し動力にする水素燃料電池自動車に関しては、国内の自動車メーカーが市販車として販売を行っています。まだまだ流通数自体は少ないものの、水素を使用した地球環境に優しい自動車はすでに街中を走っているのです。
トヨタ自動車は、2022年6月のスーパー耐久24時間レース会場で合わせて行われた会見において、現在市販化に至っていない水素を直接燃焼するエンジンをもつ水素自動車の市販化を表明していることもあり、今後さらに水素自動車への期待が高まっています。
こちらでは、水素自動車について、メリットやデメリットも合わせてご紹介します。
水素自動車とは
水素自動車はその名の通り、ガソリンの代わりに水素を燃料として走る自動車です。水素を燃料とする自動車には以下の通り、大きく分けて2種類存在します。
水素をエンジンで直接燃焼させて動力を得るもの
水素をエンジンで直接燃焼させて動力を得る、水素エンジン車が一つ目の水素自動車です。
東京都市大学(旧名武蔵工業大学)や、マツダ、BMW、フォードなどは、水素を直接燃焼させる水素エンジンを搭載した水素自動車の試験車両を開発していますが、2022年12月現在も市販されている車はありません。現在も開発を続けている東京都市大学では、既存の重量車(トラック)を水素エンジン搭載車へと改造し、トラックが本来搭載しているディーゼルエンジンに近い出力をもつ水素エンジン車の実用化を目指しています。2022年度後半には同車の取り組みとして、耐久試験の実施が予定されています。また、トヨタ自動車でも水素エンジン車の市販化に向けて研究開発がすすめられていて、2022年6月のトヨタの会見では、水素エンジン車の市販化に向けての開発フェーズは、現在山の4合目付近までたどり着いていると発表していました。
水素を燃料に発電し、電気を動力に走るもの(燃料電池自動車)
水素と酸素を結び付けて発電し、その発電した電気を動力に走るものが水素自動車のなかでも、燃料電池自動車とよばれる車です。現在はトヨタから、水素自動車(燃料電池自動車)のMIRAIが販売中です。以前は、ホンダからもクラリティ フューエル セルが販売されていましたが、2021年9月に生産を終了しています。ホンダは2024年に米国のホンダ四輪車生産拠点において、新型燃料電池自動車の生産を予定しています。
これら2つの種類を区別するため、前者を「水素自動車」、後者を「燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle=FCV)」と呼ぶ場合もありますが、トヨタのMIRAIは燃料電池自動車(FCV)や水素自動車とも呼ばれることがあるため、水素自動車といっても一概にどちらとは言えません。燃料電池自動車はその仕組から電気自動車に近いものと考えられています。
水素自動車のメリット・デメリットとは
この記事では前述した水素自動車のなかでも、主に燃料電池自動車の方を取り扱います。水素自動車(燃料電池自動車)は、電気自動車のように排気ガスを一切出さず、航続距離はガソリン車並という一見良い所取りのような車です。では、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
水素自動車(燃料電池自動車)のメリット
水素は、ガソリンなど化石燃料を使用するエネルギーなど限りがある自然資源エネルギーとは異なり、水を電気分解することで取り出すことができるため、無限エネルギーといわれています。こちらでは水素自動車のメリットについて解説します。
排出されるのは水で、有害な排気ガスが出ない
水素自動車(燃料電池自動車)の仕組みは、水素が炭素と結びついて発電しエネルギーをつくります。発電後も水しか排出しないため、二酸化炭素などの有害な排気ガスを出さないクリーンなエネルギーです。水素自動車が「クリーンなエコカー」として認知されているのはそのためです。ただ、燃料電池自動車ではなく、エンジンで水素を直接燃焼させるタイプの場合は、少量の窒素酸化物を排出しますので、燃料電池自動車に比べるとエコロジーではありません。
同じようにエコカーといわれている電気自動車も、炭素を生まないクリーンエネルギーです。しかし、電気は放電してしまうため発電後に長期間溜めておいたり、発電した電気を遠くへ移動することはむずかしいといわれています。その点、水素エネルギーは溜めておくことも運ぶこともできるため、国や地域などの環境を問わず、活かすことができるエネルギーの仕組みとなっています。
燃料の補給はガソリン車同様に短時間で済む
電気自動車は満タンまで充電するのに、数時間~10時間程度必要になります。ディーラー所有の施設やサービスエリアなどに設置された急速充電可能な電気ステーションであれば、およそ30分程度で80%までバッテリーを充電できますが、それでもガソリン車の10倍程の時間がかかってしまいます。しかし、水素自動車(燃料電池自動車)は電気で走行しますが、充電は走行中に水素を使うため、燃料である水素の入ったタンクを交換するだけで良いので、燃料の補充はガソリン車と同等の時間で可能です。
電気自動車より航続距離が長い
電気自動車はバッテリー容量の限界で、満充電から400~500km程度しか走行することができません(世界には800km以上のカタログ値を出している車もあります)。また、その航続距離もメーカーの公称値であって、実際には気温(バッテリーの性能に影響)や、エアコンの利用の有無などで、航続距離はそれより大きく下がることがあります。近所の移動のみの利用で毎日充電するのであれば問題ありませんが、充電ステーションを探しながら長距離移動する際には、もう少し航続距離がほしいところです。一方、燃料電池自動車の航続距離はトヨタのMIRAIがカタログ値750kmとなっており、燃費の良いガソリン車ほどではありませんが、電気自動車に比べると長い航続距離を持っています。
ガソリン車よりも騒音が少ない
ガソリン車は、燃料であるガソリンを爆発させる力で走るため、エンジンからの騒音は避けられません。一方で、燃料電池自動車は基本的には電気自動車であるため、モーターの駆動音と水素を利用した発電時に発生する小さな音だけで、静粛性は非常に優れています。
水素自動車(燃料電池自動車)のデメリット
水素自動車のメリットは前述のとおり多いものの、まだまだ流通数は伸び悩んでいます。なぜ、そこまで販売数を伸ばし切れていないのでしょうか。こちらでは水素自動車のデメリットについて解説します。
水素の製造過程で二酸化炭素が排出される
水素自動車からは二酸化炭素が排出されることはありませんが、その燃料である水素を生成する過程では二酸化炭素が生まれてしまいます。工業的に水素以外の物を作る際の副産物として水素が生成されるものもありますので、水素を生成するために余分に二酸化炭素が排出されているということではありませんが、「二酸化炭素(有害な排気ガス)を一切排出しない」というわけではないことも事実です。
燃料電池の製造コストが高いため、車両価格が高くなる
歴史の長いガソリン車のエンジンに比べると、水素自動車の歴史はまだまだ短く、また燃料電池の触媒にはレアメタルが必要となりますので、一般的なガソリン車に比べると車両価格は高くなります。例としてトヨタのMIRAIは、新車のメーカー希望小売価格はエントリーモデルのGグレードで700万円を超えています。もちろんエコカーとして国からの補助金が出ますのでそれよりも安くなりますが、それを含めても500万円を超える車両価格です。
同程度のスペックのガソリン車に比べると、車両価格は高いと言わざるを得ないでしょう。
水素ステーションの数が少ない
全国にあるガソリンスタンドは約2万8千箇所、さらに電気自動車普及数が伸びていることもあり、充電設備を設置しているガソリンスタンドは約2万1千箇所あるといわれています。
それに比べると、水素タンクを補充できる水素ステーションは充電設備に比べても圧倒的に少なく、現在でも全国に163箇所(2022年10月時点)となっています。内訳は、首都圏に59箇所、中京圏に49箇所、関西圏に19箇所、九州圏に15箇所、その他の地域に21箇所となっており、水素ステーションが存在しない地域も存在しますし、存在する地域にしても数か所程度しかないため、燃料の充填に苦労するのは間違いありません。
燃料となる水素そのものが高い
電気自動車や、ハイブリッド車(HV/PHV/PHEV)は車両価格こそ高いですが、その分優れた燃費性能を持ち、走行距離が多い人は燃費の差によって車両価格の差を埋められることもあります。しかし、水素自動車は燃料となる水素が高く、車両価格が高いことも合わせると、経済的な車とは言えません。車を買うのも、維持するにもコストがかかりますので、経済的な理由で水素自動車を購入するメリットは、少なくとも現時点では感じにくいかもしれません。
水素自動車は事故を起こすと爆発する?
水素は可燃性のガスですので、事故で炎上、爆発しないかと心配する方もいらっしゃるかと思いますが、結論から言えば水素自動車(水素タンク)には何重もの安全策が施されており、非常に安全です。
水素自動車の安全対策
水素自動車の燃料となる水素を溜めておくタンクは、非常に頑丈に作られています。タンク内は350~700気圧という非常に高圧な状態を保てるようにするため、強度の高い素材で作られており厚みもあります。
トヨタの実験では、フレームが歪む程の衝突事故を起こしても、水素タンクは無事で、気体が漏れることはなかったそうです。
そして次に、事故の際に加速度センサーが衝撃を感知し、バルブが閉じてタンクからの水素の供給が停止されます。
上記は水素が漏れないようにする安全策ですが、それらの安全策を超えて水素が漏れてしまった場合にも対策が用意されています。気体が燃焼するにはある一定の濃度である必要がありますが、水素は4~75%の濃度の時に燃焼します。水素タンクからの配管は車体の外側に設置されていて、水素は非常に軽い気体で拡散しやすく、水素が漏れ出た時点ですぐに濃度が下がるので、燃えにくくなります。
また、水素が漏れなかったとしても、それ以外が原因(駐車場の火事など)で水素タンクが火に包まれてしまった際の安全策もあります。水素タンクは非常に高圧になっており、タンクが加熱され続けるとその圧縮された気体がさらに膨張し、凄まじい勢いの爆発になるように思えますが、タンクには「溶栓弁」というものが付いており、加熱された時に溶栓弁がすぐに溶けて水素を放出し、タンク内の気圧を下げます。
これによりタンク加熱による大爆発は起こらないようになっています。
更に、タンクを意図的に破損させて水素に火を付けて炎上させる実験を起こした際にも、水素は空気より軽いため垂直に火柱が上がり、1分程度でガスを出しきって炎は消えます。ガソリン車を同条件で、ガソリンタンクを破損させて火を付けた場合は、ガソリンが地面に広がってタイヤ・車体ごと大炎上してしまいますので、この実験においては水素自動車はガソリン車よりも安全と言えます。
まとめ
様々なメリットのある水素自動車(燃料電池自動車)ですが、それと同等以上のデメリットも現段階では存在しており、そのためまだまだ普及しているとは言えない状況にあります。
デメリットに目を向けると、水素自動車(燃料電池自動車)が普及するには解決しなければならない課題が多くあることがわかってきました。特に、「水素ステーションの数」「水素タンクの価格」については一般の利用者にとって最も重要な要素ですので、出来るだけ早い解決が望まれます。
ハイブリッド車が進化してプラグインハイブリッド車が登場したように、バッテリー容量を増大させて自宅での充電による数十km程度の走行が可能でバッテリーが少なくなったら水素タンクから充電を開始する「プラグイン燃料電池自動車」のような車が登場すれば、現時点での燃料電池自動車の弱点はある程度カバー出来るかと思います。燃料電池自動車は元々電気で走行するため、バッテリー容量さえ増大すれば技術的には可能なはずです。ただその場合にも、車の重量、バッテリーの搭載スペース、更に高騰するであろう車両価格など、問題がでてくる可能性は高いでしょう。
水素エンジンをもつ水素自動車の登場や、水素を燃料とする燃料電池自動車の今後の開発に期待したいところです。
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