豆知識

高齢ドライバーの運転基準が厳格化!道路交通法の改正は来年5月予定

2020年6月10日に交付された【道路交通法の一部を改正する法律案】により、高齢運転者の事故防止の対策の充実と強化が図られることになりました。
この改正法律案は2022年6月までに施行が決まっており、2021年11月5日に公示された警察庁のパブリックコメントでは、政令案についての意見募集が12月まで行われています。
その同日のパブリックコメントで、この道路交通法の改正施行の予定日は、令和4年5月13日と記載されていました。道路交通法改正までは約半年の期間があります。
こちらでは、道路交通法の一部を改正する政令案のうち「高齢運転者への充実と強化」のため厳格化される高齢ドライバーの運転基準について詳しく解説します。

道路交通法一部改正で高齢ドライバーの運転基準が厳格化へ

警察庁は令和2年6月10日に道路交通法の一部を改正する法律案を公布しました。
この改正法律案によって高齢ドライバーへの対策の充実と強化が図られたことにより、高齢ドライバーの運転基準が厳格化します。
2021年11月現在は、運転免許更新時に75歳以上となる高齢ドライバーに対し、更新には高齢者講習の受講や認知機能検査の受検が必須となっていますが、改正後はこの免許更新時の必要プロセスが変更となります。
こちらで現在と改正後の、免許更新時に必要な検査などについて解説します。

現在行われている免許更新時の認知機能検査について

2021年11月現在、年齢が75歳以上(免許証の更新期間満了日における)の高齢運転者の運転免許更新時には、認知機能検査と検査後の結果を受けて各高齢者講習を受ける必要があります。
この認知機能検査は、時間認識の正確性や記憶力等を測定する30分程度の簡易なものとなっています。認知機能検査結果を受け3つの分類に分かれ、その分類ごとに高齢者講習の受講可否と受講内容が異なります。認知機能検査後の診断結果によっては免許更新が出来ない場合もあります。

認知機能検査の診断結果により3つに分けられる分類

認知機能検査により記憶力・判断力を診断
1.低くなっている2.少し低くなっている3.心配のない
公安委員会の指定する専門医
または
主治医の診断を受ける
高齢者講習
3時間講習
高齢者講習
2時間講習
認知症と診断認知症ではない免許証更新手続き免許証更新手続き
免許停止
または
免許取消
高齢者講習
3時間講習
免許更新手続き

改正後は違反歴のある高齢運転者へ運転技能検査が新設

今回の道路交通法の一部が改正されると、認知機能検査だけでなく一定の違反歴がある75歳以上のドライバーは、新設される運転技能検査(実車試験)を受験する必要があります。
この新設される運転技能検査(実車試験)は、更新期限の6カ月前から繰り返しの受検が可能ではあるものの、不合格であった場合は免許証の更新が出来ません。ただし普通免許のみが対象となるため、不合格になったとしても原付免許や小型特殊免許の継続は希望次第で可能となっています。

違反歴のないドライバーと上記の新運転技能検査を受検し合格したドライバーは、後に新認知機能検査を受検します。この新認知機能検査の結果で認知症のおそれなしとなれば、高齢者講習を受講することが可能になり、講習後に免許証の更新が出来ます。新認知機能検査で認知症のおそれがあるとなると、専門医または主治医の診断を受ける必要があり、診断結果が認知症であるとされた場合は、取消等によって免許証の更新が出来なくなります。

安全運転サポート車(サポカー)限定免許が創設される

また、今回の道路交通法の一部改正によって、運転免許の条件付与等の規定が整備されることになっています。

ここで創設される条件付免許が、「安全運転サポート車(サポカー)限定免許」です。
サポカー限定免許は、75歳以上のドライバーの免許に対し、限定条件を付与するというもので、運転出来る自動車の種類は【安全運転サポート車(自動ブレーキやペダル踏み間違い加速抑制装置等の先進安全機能を備えた車)】に限ります。こちらの免許を申請すると対象車両に限って運転することが出来るようになる免許となり、今後公共交通機関の充実度が低い地域等で増加することが予想される高齢運転者への対策となっています。

道路交通法の一部改正が高齢ドライバーに向けて行われた理由

道路交通法の一部を改正する政令案が発出された背景には、近年の高齢運転者による交通事故情勢などが大きく影響しています。

高齢運転者の免許保有者数が増加傾向にある

近年、高齢者人口の増加と、運転免許保有者の高齢化がすすんでいます。
高齢者人口でいうと、令和元年10月1日時点で65歳以上の人口は3,589万人となっています。その内、第一次ベビーブームに生まれた団塊世代【1947年~1949年生まれの】人が75歳以上となる令和7年には、さらに高齢者人口が増加することが予測され、その時には65歳以上の人口が3,677万人に達することが見込まれています。
高齢者人口増加に伴い、高齢運転免許保有者も比例して増加しています。令和元年の70歳以上の運転免許保有者数は1,195万人となっていて、昭和61年の統計時の70歳以上の運転免許保有者数と比べると約15倍です。実は運転免許保有者数自体は、昭和61年時点がピークでそこから年々減少傾向にあることを考えると、高齢運転者の割合が増加していることがわかります。

高齢ドライバーによる交通死亡事故のニュース

高齢ドライバーによる交通死亡事故件数は、この数年間において大きな増加や減少は見られていません。
しかし、平成31年4月の東池袋や、令和元年6月に福岡市で起きた悲惨な交通死亡事故の発生によって社会的耳目は集まり、制度の見直しを求める国民の声が高まりました。
また、高齢者による交通死亡事故の人的要因別では操作不適・ハンドル操作不適が割合を多く占めていることや、75歳以上の高齢運転者のブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故件数が全体の7.0%と高いことから、高齢者が運転する自動車の安全性能についての関心が高まったことにより、サポカーへの乗り換えやサポート機能装置の後付け装着を考える人が増えています。

高齢運転者への自主的な免許返納の後押しも

高齢運転者の運転免許更新に対して制度の充実と強化が行われたことや、近年の高齢運転者による交通死亡事故のニュースを見て、運転免許を更新せず自主的に返納を選択するという方法もあります。

運転免許自主返納の方法

運転免許証の有効期限内に、運転が不安になったり運転をする機会がなくなった等の理由により自主返納をする場合は、「運転免許証の申請取消」または「運転免許証の一部取消申請」「下位免許の申請」いずれかの手続きを行います。この申請を受け付けているところは、地域ごとに異なりますが、主に各警察署や運転免許試験場で申請が可能です。受付の日付時間帯や事前予約が必要等ありますので、前もって確認してからの来庁をおすすめします。

運転免許証の返納をする手続きは、運転免許証の申請取消となります。
また、運転免許証を返納すると、返納後に公的な身分証明書として使用可能な運転免許経歴証明書の申請出来ます。運転経歴証明書は免許証の返納と同時に申請も可能ですが、免許証の返納後5年以内が申請可能期間となっています。

運転免許証返納手続きに持参するもの

・運転免許証

※運転経歴証明書も同時に申請する場合
・交付手数料 1,100円
・写真一枚(他の種類の免許の申請をする場合のみ、6か月以内に撮影した縦3センチメートル、横2.4センチメートルの適当な写真、試験場では不要)
・住所・氏名および生年月日が確認できる書類(別日に運転経歴証明書を申請する場合のみ)

運転免許証の一部取消申請または下位免許の申請とは、普通免許と普通自動二輪免許をもともと取得していて普通自動二輪免許のみを取り消す場合や、普通免許を取り消し原付免許を受ける場合などの手続きのことです。この一部取消手続きや下位免許の申請は、免許の返納ではないため運転経歴証明書の取得は出来ません。

運転免許証の一部返納、下位免許の申請に持参するもの

・運転免許証
・黒または青のボールペン
・写真一枚(他の種類の免許の申請をする場合のみ、6か月以内に撮影した免許証に適当な写真、試験場では不要)
・免許証交付手数料(免許の種類毎に必要)

高齢者運転免許自主返納をサポートする取組

高齢ドライバーで自身の運転に不安がある方、家族から運転に心配があるといわれている高齢ドライバーは運転免許を自主返納することによって、その後の生活や移動手段において負担が大きくならないよう運転免許自主返納をサポートする取り組みが各自治体にて行われています。

例えば大阪府内であれば、運転免許を自主返納または失効し運転免許経歴証明書の交付を受けた府内在住の65歳以上の方へ、高齢者運転免許自主返納サポート企業・サポート自治体によって特典が付与されます。
サポート企業内のタクシー会社ではタクシー乗車運賃の10%割引を行っていたり、高島屋の大阪店・堺店・泉北店では配送料が無料になっています。
また大阪府内では令和2年4月1日から、運転経歴証明書を保有している方はマイナンバーカードと運転経歴証明書交付済みシールを提示することで、運転経歴証明書を持参しなくても証明できるようになりました。こちらは高齢者運転免許自主返納サポート制度を利用する際の提示負担を減少し、マイナンバーカードの取得を促す取り組みになっています。

まとめ

2022年5月に施行が予定されている、道路交通法の一部改正案について、特に高齢ドライバーへの運転基準の厳格化に焦点を置いてこちらで紹介しました。
今後免許更新をする予定があるという方や、高齢のご家族が運転免許を更新するという方は、新認知機能検査や改正後に新設される運転技能検査、安全運転サポート車限定免許のことを前もって知っておくことをおすすめします。今回の道路交通法の一部改正は、高齢運転者の免許保有者数が年々増加していることや、社会的にも問題となった高齢ドライバーによる交通事故などが大きく影響を与えています。ご高齢の親族や知人の運転に対し不安を感じているという方や、ご自身の運転に不安があるという高齢ドライバーは、自主的な免許返納サポートへの取組も各自治体によって行われていますので、この道路交通法改正をきっかけに相談をしたり、話し合いをされてみてはいかがでしょうか。

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